“線を越えないで” 38度線の意味
38선 밑으로는 골목까지 훤합니다~
映画「パラサイト」中
(38線の下は路地も詳しいですよ)
パク社長のドライバーとして運転テスト中のギテクが言うこの「38線」とは、地図の北緯38度線を言うが、現在の休戦線の下の全部、つまり南韓(韓国)全体を表す表現だ。道を良く知っているという自信。
1945年8月、アメリカとソ連の便宜によって地図の北緯38度地点のラインがひかれた。韓国と北朝鮮の分断の始まり。地図上だけで存在する線だから、実際には鉄柵やラインがあるわけではない。
朝鮮戦争以降は、正確な38度線が基準ではないため、“軍事分界線”、“休戦線”と呼んでいる。これが、現在の北朝鮮との国境線。
年配の人は未だに38度線と呼ぶが、最近の若い人たちは休戦線と呼ぶケースが多い。
前の記事で紹介した、パク社長の会社の名前 “Another Brick” を通じて、階級による壁と塀の意味について説明した。
半地下のギテクは上の村の人たちに近いと思い親しいふりをするが、パク社長にとってギテクはただのテストドライバーだ。映画の後半部にもパク社長はギテクに「線を越えるな」と警告する。
この映画には、建物の構造や家具の配置を通じた垂直的な感じの線のほか、カメラワークに盛り込まれた数多くの線が登場する。
パク社長の会社に面接を受けに来たギテクの場面で、パク社長とギテクはガラスの線で徹底的に分離されている。 偶然かと思うかもしれないが、また他の場面でも線は登場する。
家政婦のムングァンが昼寝をするヨンギョを起こす場面は、徹底的に計算された場面であることが分かる。 ムングァンが無礼にヨンギョの空間を侵犯する瞬間は “線を越えている”。
礼儀良く家庭教師の面接を受けに来たギウの場面では、ギウとヨンギョは冷蔵庫の線で分けられているが、ギウの家族が欲を出して線を越えた場面では、また線を侵犯した場面が出てくる。
仕事を探すという初心を失ったギテク家族のハラハラする欲について、監督はすでにカメラを通じて警告していたのだ。 映画の中の場所だけでなく、画面でさえ共存できない階級の差を見せてくれる演出だと思う。
だから印象的で不気味なパク社長の警告なのだ。「線を越えないでください」
残忍なほどに徹底的に階級を区分する映画『パラサイト』の「線」のように、韓半島の「休戦ライン」もまた韓国と北朝鮮を70年間分けている。
ギテク家族のように一線を越える人がいるが、大部分は北朝鮮から韓国に来る場合だ。 スパイや脱北者。韓国に住みたくなくて北に行く場合はごくたまにある。どんな場合でも、その地域の担当部隊は大騒ぎになるだろう。
38度線の記事で紹介したように、2重3重の高い鉄柵と南北の軍人の監視があるため、決して容易ではないが、不可能ではない。
脱北者の場合、通常は韓国軍に投降する方法を選択するが、最も不思議で面白かったケースは、脱北してから再び北朝鮮に渡ったある男性。
元体操選手として知られる北朝鮮の男性のせいで、2020年、DMZ担当部隊は大騒ぎになった。 3メートルを超えるいくつかの鉄柵を乗り越えて来たということで。韓国に派遣されたスパイの場合は、普通は鉄条網を傷つけて侵入するが、この男は鉄条網の上から来たという。
それが可能なのか?韓国に派遣された特殊部隊ではないか?という議論が多かったが、”ジャンプ亡命“と呼ばれたこの事件が再び話題になったのは1年後には “ジャンプ越北” をしたからだ。
今回も鉄柵には跡形もなく北に渡ったので、この男は本当のスパイじゃないかと想像している。 禁止された線を自由に出入りしたその男の正体は、本当に何だったのだろうか?
韓国の男性たちはDMZ地域に出没する”コラニ(キバノロ)でもなくジャンプが可能なの?“と国防省の発表を相変わらず疑っている。
DMZで南と北を自由に往来するコラニたちのように、南北の人々が往来する日が早く来ることを願う。
半地下の誕生と北朝鮮
1・21事件と映画『シルミド』
映画のキーポイントである “半地下”。
面白い、不思議だ、など色んな反応があるが、まずは映画『シルミド(실미도)』(2003)を先に紹介する。
1968年1月21日の夜…
31名の北朝鮮の特殊部隊の要員たちが韓国に浸透する。
目標はソウル、そして「青瓦台」
ソウル市内侵入に成功し、青瓦台のすぐ後ろの町まで侵入した彼らは、警察の検問にひっかかり、熾烈な銃撃戦を繰り広げる。
約2週間の追撃戦の終わりに1人は逮捕、1人は逃走、残りは射殺。
そうやって終わりを迎えた事件で唯一生き残った北朝鮮のスパイ「金新朝(キムシンジョ)」
朴正熙(パクジョンヒ)大統領を狙った事件を復讐するために、北朝鮮の金日成(キムイルソン)に韓国の特殊部隊を送るストーリーが映画「シルミド」だ。
この映画は実話を元にしたもので、韓国で初めて映画動員1,000万人を達成した映画だそう。タイトルの「シルミド」は訓練の場所であった仁川(インチョン)の島(実尾島(실미도))の名前だよ。詳しくは「1·21事件」や「684部隊」、「実尾島事件」を調べてね!
青瓦台のすぐ前まで突破したとんでもない事件だったから、南北間は戦争直前の雰囲気だった。
その時に作られた予備軍制度によって、今も韓国の男性たちは除隊後も8年間毎年1回以上訓練を受けなければならず、(実際は4年くらい)40歳までは民防衛に所属し、1年に1回出なければならないのだ。
「前線は軍人たちが、町は予備軍が守ろう」
軍隊までは我慢できても…本当にめんどくさい制度を作った悪い奴…キムシンジョ..(T_T) 私が小さい時は「おい!キムシンジョみたいな奴!」はよく使われる悪口でした。
地下室の設置の義務化
こんな南北の超緊張状態から、1970年代始めに改定された建築法により(1970年・1972年の2回)、一定用途と規模以上の建物の場合、地下層の建設が義務化された。
ソウルの中心(青瓦台のあたり)で起きた銃撃戦は戦場の区分と概念を変えてしまい、いつでも避難できるように防空壕の役割、どこでも戦闘できるようにバンカー(bunker)の概念として地下室が義務化されたのだ。
しかし、経済の成り行きが苦しかった当時、地下室の設置に伴う建設費上昇と建設期間の負担を減らすため、個人の住宅の場合、緩和された基準で誕生したのが「半地下」だ。
地下でもなく、地上でもない「半地下」
地面を少しでも掘らなくてすむなら、費用も期間も短縮できる。
半地下は普通、倉庫として使われたが、経済成長により人々がソウルに集中し、住宅が不足すると居住空間として使われ始めた。
半分地下だった倉庫は曖昧な用途だが、半分でも光を見ることができる “半地上” は居住用途にはそれなりに使えたので人気。
こんな事例が広がると、1984年、政府は建築法を緩和し、住宅不足の現状を解決しようとした。
「地下の部分が2/3はないと地下じゃないでしょ~」から「地下の部分が1/2でも地下ですよ~」と…そうして現在の「半地下文化」は定着したのだ。
半地下の問題
余っていた空間が賃貸になれば、家主にとっても良いし、半地下を理由に安く利用できる入居者たちにとっても良いし、良かったね!
…っていう訳ではなくて… 安いものには全部理由があるのだよ…
日当たりとプライバシーの侵害は基本的な問題で、一番深刻なのは湿気とカビによる環境と衛生問題。水害問題、犯罪にさらされる環境など色々なデメリットも。
通り過ぎる猫ちゃんも、ワンちゃんも、こんな私の人生を見下ろすけど…それでもまだ、半分は地上じゃないですか!っていうにはデメリットが多すぎる。
불우이웃끼리 이러지 말자
映画「パラサイト」中
(恵まれない者同士、こんなことはやめよう)
と言う”地下”のムングァンに
난 불우이웃 아니야
映画「パラサイト」中
(私は恵まれない人じゃない)
と言う”半地下”のチュンスクのように半地下は違っていなければならないのだ。差がないといけないのだ。そうすれば少しでも夢と希望を持てるから。
今は全てのことを諦めたクンセも、壁に張ってある婚姻届けのようにラブラブを夢見ていた夫婦だったし、本棚にある法律書籍を読み、警察を目指していたし、地上に出てきて音楽に合わせて踊って希望の時間があったじゃないですか?
彼も努力はしていただろうに、パク社長に「リスペクト!」と叫んでいるのは、失敗していない人に対する心からの尊敬であるのかもしれない。
北朝鮮に備えた建築家の防空壕のおかげで、地下でも暮らせるムングァン夫婦は、ひょっとすると、心からパク社長を尊敬し、北朝鮮に感謝していたかも。政府からも捨てられた彼らに与えられた唯一のチャンスだから。
“北朝鮮のおかげでこんなに暮らせるね~ありがたい北朝鮮の奴ら~” こんな感じのセリフがあったから、北朝鮮のアナウンサーのものまねをしてたんじゃないかと思う。
地下から屋上に 屋上部屋の流行
半地下の歴史は、韓国の歴史と現実を映し出しているもう一つの鏡だ。
北朝鮮と経済成長、ソウル集中の現状と両極化問題、ロマンという名前で包まれた「屋上部屋(옥탑방)」の流行まで。
たしかに、屋根裏部屋や屋上に部屋があるタイプの家は韓国ドラマで良く見る!
ソウル基準の地上対比平均3-40%以下の地下や屋上部屋の安い賃貸料は、
2015年基準で全世帯の2%程度が依然として地下と半地下居住。30歳以下の青年の場合、およそ4%で2倍。全世帯の住居貧困率は3分の1に減少しているが、同期間、青年住居貧困率はむしろ増加。
という数値が出たのだ。
“青年”と “ロマン”、という単語で包まれてきたこの文化は、不足している駐車場確保のために法律が変わり、少しずつ消えてきている。
1階の駐車場の上に建物を建てるピロティー構造が増えてきて、地下層が消えつつあるが、最近起きた地震などの耐震問題のため、またどのような変更が行われるのか気になるところ。
もちろん、自嘲的な単語だっただろうが、社会的弱者に対してロマンと思い出がなすすべなく強要される社会よりは、お金の心配なしに自ら「選択」可能な環境になることを願う。
半地下住宅のトイレの位置
雷と一緒にチャイムがなり、雨は一晩中降り続ける。
親戚の家を夢見る程近いと思ったけど、家に向かう階段は終わりもなく続く。パク社長の家から降り始めた雨は、もうこれ以上行き場もなくギテクの家に逆流する。
これ以上のどん底はないと思っていたけど、雨水さえも逆流する場所、半地下のトイレについての話をしよう。
2人の兄弟がWi-Fiを探し、キジョンがタバコを吸っていたトイレの構造は、仕方なく、必ずそうしなければならない構造だった。
半地下はもともと倉庫や待避所の用途だったので、居住のための設計ではないからだ。
特にトイレの便器の位置は、地上階の汚水を流すための貯槽の位置が、通常は深くないところに設置されるが、管理と掃除のために上段部は地上の蓋で連結しなければならないので深い所には設置しないし、その理由もない。 掘削費用と配管連結費用がかさばるだけだから。
まさにその理由で、深くても地下1階ほどの深さに埋められたタンクと半地下の住居空間は、ほぼ同じ高さに位置する。
水を流してみれば理解しやすいが、便器と貯蔵タンクまでの配管連結が水平になってはならないため、便器の位置が貯蔵タンクよりは高く、配管に乗って下に流れてこそ、想像上最悪の事態が起らない。
公園や山などの屋外に見かける簡易トイレは、階段を上がって利用しなければならない理由も同じで、絶対に高くないといけないから。
映画のように便器の部分だけ高くなっている場合が多く、最初から浴室の床の部分全体の高さを出している場合もある。
普通は倉庫の空間を改装して始まった文化だから、水道や電気施設もまた劣悪。すでに完成している設計案で最小の費用で、既存の設備と連携がしやすい、近いところに配置をするようになる。
その中でも水道やガスの連結が必要な台所やトイレが、特に多く制約を受けることになり、とんでもない所にある台所とお風呂をよく見かける。
もちろん、こんな変な構造は韓国でも「へぇーこんな構造の家があるんだ~」の対象で稀。
長方形の構造のトイレで用を足してドアがいきなり空いた時、ドアを締めることができない。またある時は、写真のように便器が高い位置にある友達の家で用を足して、トイレットペーパーが下の壁に固定されているのを見つけた時、しゃがんだ姿勢で階段を下りるには本当に地獄…。
はい、どちらも私の実体験です(笑)
すでにトイレの天井に頭がつきそうで、かがめていたら足まで痺れてきて、痺れた足を引きずってヨチヨチ階段を下りるのは、軍隊の遊撃訓練よりもぞっとした記憶…。それからというもの、私はその構造がとっても嫌い。全~~~然人間に配慮されてない設計だから。
幸運なことにその友達は地上に引っ越したけど、半地下は色々と大変な空間ということは確か。
辛うじてある窓が前の建物で遮られたり、他の建物で光が入ってこない場合、昼間でも蛍光灯を付けなくちゃいけない生活を経験出来たりも。
しかし窓の外の通行人、安全問題、車の排気ガスや動物たちの訪問よりも一番ひどいのが、湿気とカビ。
玄関と連結されたお風呂も、台所と一緒のトイレも、安い家賃で我慢できるかもしれないけど、365日、地下に漂っている湿気とカビは人間が生活できるレベルではないし、健康のためにも避けなければならないほど。
その湿気とカビによるのが、まさに映画で強調されていた「そのにおい」じゃないかと思う。
1980-90年代に急増し、古くなった半地下の住宅は建て直しと一緒に、その多くがなくなり、今では現代化されたけど、「そのにおい」は未だに構造的な限界として、克服しないといけない大きな壁である。
おまけ*「私の部屋のリビング」
何年か前に韓国で、有名な芸能人の娘がSNSに上げた”내 방 거실(私の部屋のリビング)” という言葉が話題になった。
「私の部屋だったら、私の部屋で、リビングだったらリビングでしょ?」
「何それ?新造語?」
愚かで節度がない娘として評価を受けた彼女の言葉は、調べてみると彼女は約100億ウォン台の大豪邸に住んでいて、地下2階から地上4階まである彼女の家には、一般人の家の大きさほどあるリビングが何部屋もあって、メインのリビング以外に部屋ごとにリビングがあったのだ。
実際に「私の部屋の中のリビング」が別にあったという彼女たちだけの世界とスケールを知らされた伝説の新造語事件は、地下の人たちをあまり知らないダソンだけがギテク家族から漂う共通的な匂いを探すように、”金のスプーン(금수저)“と呼ばれる人たちにとっては自然な姿だった。
“金のスプーン”と呼ばれる人たちとの格差は広がり、今では対話や意思疎通さえも出来なくなった庶民たちの現実を見せられたようで、なんだか悲しかった話題。
今となっては、地下と地上では使う言葉さえも変わってしまっている。
※금수저(金のスプーン):裕福な家に生まれた人のことを韓国では「金のスプーン」という。