ドラマの内容についてのネタバレはないから安心して読んでいいよ~
仮面と赤いジャンプスーツ、主題歌 Bella Ciao
原作『ペーパーハウス』を象徴する3つ。
サルバドール·ダリの仮面、赤いジャンプスーツ、テーマ曲「BellaCiao(さらば恋人)」。
特にその中でもダリの仮面とジャンプスーツはレビュー記事①、➁で少し説明したように、ものすごい人気だった。
教授と強盗たちはドラマの間ずっと仮面をかぶって出てくるが、一見すると映画『Vフォー・ヴェンデッタ』(2005)に出てくる「Vの仮面」と似ているように見える。
でもペーパーハウスでは、仮想ではなく実際スペインの有名画家サルバドール·ダリをモチーフにした仮面を使用した。
『ペーパーハウス』では、よりによってサルバドール·ダリの仮面を選んだ理由は何だろうか?
彼らはなぜ仮面をかぶって出てきたのだろうか?についての話をしてみようと思う。
サルバドール·ダリ(SalvadorDali)は、1904年スペインで生まれ、超現実主義作家としてよく知られている画家だ。 しかし作品よりも、彼の特異な行動の方が有名だったそうだ。
現代の韓国式の単語で言えば “関心 種子 (관심 종자)”(人目を引いたり関心を受けることを楽しむ人を卑下する表現)と呼ぶべきほど様々な奇行に明け暮れたというが、私たちが今もコンビニに行けばよく見る棒キャンディ “チュッパチャプス” のロゴをデザインした人がまさにこの人だ。
たった数十円で私たちはサルバドール·ダリの作品を買えるんだよ(笑)
もちろん世界的に有名な画家で、いくらスペインドラマだとしても銀行強盗たちがいきなりサルバドール·ダリの仮面をかぶる?
スペインにはあの有名なピカソからゴヤ、ミロのようなそうそうたる芸術家が多いのに?
時計の絵は見たことがあっても、ダリが誰かも知らなかった(笑)
その理由は、ドラマを見た人たちは分かると思うが、ドラマはダリの人生とよく似ている。
ダリの名前であるサルバドール(Salvador)の意味が”救世主”ということから、平凡ではない人で、自分を現代美術の救世主と呼ぶほど傲慢な天才だった。
さらに、ダリが若いころ深い感銘を受けたダダイズムは、反理性的で、反道徳であり、反芸術主義を象徴する急進的な芸術思潮であり、これは自然に1960~70年代に流行した無政府主義や反資本主義思想につながったからだ。
ドラマ『ペーパーハウス』も、警察に象徴される権威主義や権力、そしてタイトル「紙の家」で表現される造幣局のような資本主義に対抗して嘲弄しているので、これ以上に似合うものはない。
亡くなった後もダリ(写真・左)は平凡じゃなかった(笑) 実の娘を主張する女性(写真・右)のため、墓を掘ってDNAを採取しなければならなかった。もちろん実の娘ではなかった(笑)
特に滑稽な姿の口ひげを長く伸ばしたダリの仮面は、既存の秩序と権力をあざ笑っているように見えて非常によく似合う。
そこに左派と進歩を象徴する血の赤いジャンプスーツを着て出てくるのも当然のように見えるし、イタリアの反ファシスト抵抗軍が歌ったという歌「BellaCiao」がBGMとして出てくるのも十分納得できる。
Bella = Beautiful, 美しい人(恋人、愛人、愛)
Ciao = goodbye, さようなら
「さらば、恋人」と翻訳される歌「BellaCiao」は19世紀末、稲作をする女性たちが経験する労働の苦痛と悲しみを世の中に知らせるために作られた歌だそうだ。
その当時は稲作をする農夫たちの人権搾取の状況が本当に深刻で、1940年代には「ファシズム」に抵抗する曲としてイタリア独立軍が歌い始め、以後は「自由」と「抵抗」を象徴する曲になったそうだ。
強盗なりのやり方で、権威主義と資本主義に対抗するために、彼らはダリの仮面と赤い服を着て「BellaCiao」を歌い、その意味を受け入れた世界の大衆に実際のデモ現場でダリの仮面をかぶって赤いジャンプスーツを着させたのではないだろうか。
このように上の3つの要素が集まって『ペーパーハウス』特有の雰囲気を作ってくれると同時に、強盗たちが持っている抵抗精神とドラマの主題を象徴しているのでどこか“単純な銀行強盗”ではない感じで人々が熱狂したんだと思う。
シーズン1の最終回だっけ? 原作で一番の名場面として挙げられる教授とベルリンがBellaCiaoを歌う場面がオススメ!(シーズン2の前半かも)歌詞と一緒に見ると、ドラマ全体を貫く精神を感じることができる。
イライラする場面も多く、イライラさせるキャラクターに疲れたりもしたが、根本精神だけは影響力が非常に大きかったドラマだと思う理由だ。
仮面、赤いジャンプスーツ、テーマ曲BellaCiao。そして“自由と抵抗”。
ダリの仮面と河回タル
しかし、サルバドール·ダリのその後の歩みを調べれば、ヒトラーを称賛したり、フランコ権威主義政権に同調するなど、年を取ったダリは彼の若い時代とは違う態度を見せたりもし、少し首をかしげることもある。
前述の『ペーパーハウス』で、ダリの仮面の持つ意味が色あせるほど。
もしかしたら、本物の仮面をかぶったのは、彼自身の人生ではなかったのかと考えてしまう部分。
そのためかドラマでは重要な瞬間には、仮面を脱ぐ場面が意外とよく登場する。
仮面をかぶるということは、自分たちの正体や感情を隠すためだったが、特に大衆に自分たちの真心を訴えたり、愛する人のためにはむしろ積極的に仮面を脱ぐ場面が出てくる。
結局、重要なのは外部に見られる仮面ではなく、その中に入っている人の本心だという点を伝えたかったのではないか。
抵抗と自由の象徴になってしまった仮面だが、仮面に隠された人々の真実の姿と偽善的な姿の衝突が、むしろ大衆があれほど熱狂し感銘を受けた理由ではないかと考える。
スペインの制作陣も当然、ダリと違って晩年の歩みを知っていたはずだから、求心点を作ることは結局象徴であり、象徴は対象から必要な要素だけを極大化させるという点で、制作陣の意図は大変成功したのだ。
このような象徴の意味を極大化させたのが “サルバドール・ダリの仮面” だったので、韓国版リメイクが初めて決まった時、全ての『ペーパーハウス』のファンたちが一番気になったところは、
「仮面はどうするんだろう?」
「仮面が象徴だけどそのまま被るんだろうか?」
「韓国人に西洋人の仮面ってぎこちないよね?」
だった。
そして初の予告映像がアップされた時の韓国人たちの反応はすごかった。
“ 河回タル(ハフェタル/하회탈) ”
西洋人の立場ではただ「似てるけど、仮面を変に真似した?」っていう反応だったけど、河回タルを知っている韓国人には、ペーパーハウスの最大の象徴であるダリの仮面を完璧に韓国化して再解釈したと好評だったのだ!
単純に原作の人気を利用して俳優と背景だけが変わるリメイクになるか、それとも新しい感じの再解釈になるか心配していた韓国のペーパーハウスのファンたちには、“統一を準備する韓国” というストーリー背景も合格点だったし、河回タルは本当に卓越した選択だった。
韓国での河回タルは滑稽と批判、そして抵抗を象徴する伝統仮面で、歴史の時間に学ぶ程、とても有名な伝統仮面だ。
ダリの仮面が自由と抵抗を象徴し、変な口ひげが奇怪さを演出したとすれば、大きく笑っている姿の河回タルは、一見ぞっとする恐怖心を感じさせ、奇怪に笑う姿は権力層に対する嘲笑の感じまでも完璧に生かしてくれるので、まさにピッタリだったのだ。
別の記事で紹介するが、実際の歴史的にも河回タルは権力と指導層に対する批判と風刺のために庶民が楽しんでいた仮面踊りで主に使われたので、歴史的意味までも完璧だった。
残念な点は、韓国人以外はその意味がよく分からないので、単なる仮面の類似品と考えるということだろう。
それでもNetflix韓国ドラマ『キングダム』(2019)を通して、韓国の伝統帽子“カッ(帽子/갓)”が西洋人に多くの関心を呼び起こしたように “河回タル” もまた、外国人に少しでも知られるならばそれこそ文化の輸出であり、メディアの波及力だと思う。
個人の意見では、それだけでも韓国版の製作価値は十分あると思うから。
もっと多様で多くの韓国文化とアジアの文化が世界に多く知られることを願い、今日の記事は終了。
ちなみに河回タルを使った仮面踊り(タルチュム)は、現在ユネスコ無形文化遺産に登録されているよ!詳しい内容は次の記事で紹介するよ☺